'蒐荷’ 開催にあたり
谷保玲奈(日本画家)
今年の3月終わりに日本が、世界が一度終わりました。
こう書くと衝撃的ですが、私にとってあのときと今ではまったく違う世界へ突入したのです。自粛期間中はいつものリズムと変わらない生活であるにも関わらず、制作をする気力、ましてや絵を発表する気力は消え去りました。自分の作品がゴミに見えました。そのことが本当にただただ悲しかった。
でもそんななか私は飢えはじめたのです。今しか表現できないもの、そして国内に留まった今だからこそ、ここでしか表現できないものがあるはずだと考えはじめました。
作品を、近代以前の解放された建築空間で展示できないか? そう模索するなか、三溪園の旧燈明寺本堂を発見しました。旧燈明寺本堂では外からの光による色彩の微妙な変化を見ることができ、私にとって自然とともにある絵は、ここで時間や気候の変化とともに、その都度違う印象をもたらすのではないか。これは現代に生きる私なりの日本画という概念への回帰であり、実験です。
はじめて挑戦する映像作品では、以前、美術館の企画でご一緒したキュレーターの小金沢さんと、そのときインタビュー映像を撮影してくださったビデオグラファーの岡安さんに連絡をとり、映像を作りたいと思いますとご相談しました。
話し合いのなか、暗い夜明け前から明けていく時間に海へ設置する運びになりました。それは私にとってごく自然な成り行きでした。屋外の展示にあたっては作品に対してさまざまなリスクがあり、お天気とも睨めっこをしながらの日々でしたが、常に自然からの影響を受ける外での撮影は、まさに私の作品のテーマと合致するものでした。環境から影響を受け変わりゆく絵が、日常と自然と作品が常に密接に干渉し合う私の制作態度を表現するものになっているのではないかと思っています。
このまま誰にも見られずにいる作品ならば海のなか、山のなか、日常へ還そうと思いました。一度終わってしまった世界からの移行。この展示は、私の中でも最も重要な発表になるでしょう。
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個展
「まだ見えない世界」
会期: 2022年3月15日(火) 〜 3月20日(日)
横浜市民ギャラリー 展示室B1階
共催:横浜市民ギャラリー(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団/西田装美株式会社 共同事業体)
助成:芸術文化振興基金
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